ブロックチェーンガバナンスについて
ブロックチェーンガバナンスが話題になっています(個人的に)。以下のページはオンチェーンとオフチェーンのガバナンスの違いについて説明しました。
チェーンのガバナンスについて取り組んでいるプロジェクトの設計を理解することは非常に有用だと考えているので、最近はMakerDAOや0x Protocolを調べています。
本記事では以下のMakerDAOの公式記事を読みながら考えたことをメモしていきます。
MakerDAO Governance Risk Framework – MakerDAO – Medium
トラストの概念について
トラストの概念はトラストレスシステムの中でも消さったわけではなく、ただ多様化されただけである。
→トラストが分散されたところで過半数を得るには連立が必要。となると分散されていたところでシャープレイ・シュービック指数(※)がどこかに集中する懸念がある?ただよく分散されたシステムは、シャープレイ・シュービック指数も分散するはず(要調査)。
※「ゲーム理論とその応用」-議会における政党の影響力の分析を中心として- – m1dstream
ステーブルトークンの種類
→そもそもトラストはなくならない。トラストの向かう先が変わるだけ。銀行からアルゴリズムへ。国家からネットワークへ。何も信じずには何もできないと言っても過言ではない。
Collateralized Debt PositionはDAI供給のためのエンジン
従来の手法で担保資産を管理しようと思えば第三者によるエスクローサービス等を使わなければならないが、CDPを使えばスマートコントラクト上での実現が可能。
→エスクロー代わりにスマコンが使えるとはいえ、スマコンも万能ではない点には注意。ここでは触れない。
リスクマネジメントのためにMKRホルダーはリスク構造を理解し、システム変更のために投票を行わなければならない。
MKRホルダーで構成されるコミュニティは先述の通り、リスクについて理解し、より良いシステムを構築しなければならない。このコミュニティは最初は開発チームによってリードされるが、徐々にMRK投票によって複数のチームや独立リサーチャーに分散化されていく。
→リスク管理の業務を引き受けるには恐らく多大な労力が必要となるので、それを正当化させるだけのインセンティブが必要。しかしMKRホルダーへの還元は、純粋にDAIの利用に伴う手数料収入に限られるので、インセンティブが弱い気がする。より良いリスク管理とDAIの利用拡大の間には相関関係があるとはいえ因果関係もない。
→一方で、このような形で、独立チームやリサーチャーが収益を得られるエコシステムは今後も拡大するだろう。Gitcoinが好例。
→トークンで報酬が得られるとはいえ、エコシステムの維持を担う主体には相当な自律心が必要。求められる人間像が、好奇心と徳に溢れすぎている。
→さらにフリーライドの問題もある。自身のトークンをステークしている状態でも、あわよくば他人の労力にタダ乗りしようとする人の割合はかなり多いはず。実際に大災害が起こらないと自身の行動を変える人は少なそう(大災害を経てもなお行動を変えない人も多いと思う)(人は無自覚ゆえの人災を軽視し、自覚による改善を過小評価する傾向にある)(※要出典)。
投票の方式
リスク研究チームの選考は投票を通じて行われる。またリスク関数の管理も同様。
MakerDAOのガバナンスメカニズムにはProactiveなものとReactiveなものがあるらしい。
・Proactive
議論、決議、自動化実装
→新しく採用する担保資産の構想、承諾、包摂やそのリスクパラメーターの設定
・Reactive
手続きの介入
→サイズと流動性の増加に伴う担保資産のエクスポージャーの増加
投票の形態も二つ
・決議が必要なとき(ガバナンス投票)
→新しいオラクルの包摂、新しいリスクチームの受け入れなど
・決議をシステムに組み入れる際(エグゼクティブ投票)
→新しく採用された担保資産のためのリスクパラメーターの決定など
投票のタイミングや頻度が極めて重要。更に成功裏に投票を終わらせた場合でも、どのくらいの頻度でReactive governanceが必要かを認識しておかなければならない。
→というのも、頻度の高さはMKRホルダーの感応度や自律性に依存するため。
MakerDAOのパラメータは以下の記事で説明しています。
Timing of Proactive Governance Votes
投票はさらに3つのタイプに分けられる。
Once-off or initialization votes
リスクマネジメント機能は当初、内部チームが果たすことになるが、このチームは将来のチームのためにテンプレートなどを作成する。その設定のために、最初の投票が必要。
Intermittent votes
新しいオラクルのための投票など。不規則に発生する投票。
Regular votes
新しい担保資産のリスクパラメーターの実装など、定期的なイベントに対しての投票。
※18年7月3日発表の公式記事によると発行されるDAIが50ミリオンから100ミリオンに拡大されたようですが、こちらはMaker foundationによるMKRホルダーの調整によって決定がなされたようです。
Before the new voting governance dashboard is released, the Maker Foundation will coordinate voting among highly technical MKR holders via command line tools, to avoid any disruption of Single Collateral Dai.
DAIのコントラクトはこちら。
Ethereum Accounts, Address and Contracts
Timing of Reactive Governance Actions
リスク構造に従って、時間の経過と共にある種のインプットは変化する必要がある。これらのインプットはオラクル等の機能のパフォーマンスに関連しており、もしオラクルを排除する必要がある場合、Reactive actionが必要になる。もし担保タイプがサイズや流動性について変化した場合、エクスポージャーは増減する。アウトプットがリスク構造の公式な仕組みに依拠している範囲で、調整が行われる(※想定された枠組み内での変化である以上、変更を妨げられたりはしない、くらいの意味?)。
→オラクル周りは、オラクルそのものだけではなく、オラクルの役割を果たす主体の取扱も複雑になってしまう。
Voting in New Collateral Types
新しい担保タイプの包摂はどのように行われるか?
→まず定性的評価が行われ、MKRホルダーに提案される。その際はGovernance voteが実行される。受け入れられた場合、次のExecutive voteにおいて担保資産として包摂される。
→定性的評価よりも既存の担保資産との相関係数や値上がり率などの定量的評価を自動で行い、スクリーニングしてから定性的評価を行うべきだと思うが、それについては記述が見当たらない。
新しい担保資産がGovernance voteをパスした場合、リスクパラメーターが考慮に入れられる。四半期米にリスクパラメーターはExecutive voteを通して投票される。
The First Risk Construct
リスクマネジメントは当初はMaker Foundationのリスクチームによって行われ、このチームは最初のリスク構造の設定と将来のチームのためのレファレンスとテンプレートの作成を担う。
→この辺は企業からコミュニティへの変化を目指すどのチームも抱えている問題。例えばAirSwapもオラクルはAirSwapのチーム自体が担うし、Gnosisも同様。必ずしも市場やプロジェクトへの貢献に一致しない形で給与を貰える会社員によるコントロールからアーキテクチャによる制御への脱皮は実際のところかなり難しい。
→そもそも分散=善ではなく、それは思想の問題だし、分散性には相性があるので、まずは相性の良い分野(機能を限定した台帳であるビットコインが好例)の中で、たまたまブロックチェーンと相性の良い課題にめぐりあうことが重要。ブロックチェーンありきではなく(難しいけど)。