ブロックチェーンのガバナンスモデル – on-chain vs off-chain

シリーズ

今日はブロックチェーンにおけるガバナンスについて簡単に考察したいと思います。「ガバナンス」は抽象的な言葉なので、本記事に置いては「コードをアップデートする方法」のことをガバナンスという言葉で表現したいと思います。

去年の8月にビットコインキャッシュがビットコインからフォークして誕生しましたが、あの時に大きな混乱が発生したのは、良くも悪くもビットコインのアップデートにはマイナーの自発的な行動(ソフトウェアを手動でアップデートすること)が必要だからです。もちろん、スケーリングにおけるSegWit派とビッグブロック派の対立があることが前提なのですが、ビットコインやEthereumのアップデートは「放っておけば勝手にシステムがアップデートしてくれる」という類のものではなく、「利害関係者(特にマイナー、ノード運営者)の自発的な意志の行使」が必要になります。

ブロックチェーンのルールを変える時

ビットコインやEthereumは、マイナーによってブロックが採掘され、ネットワークを形成するノードによってトランザクションの検証が行われ、「正しい状態の更新が=歴史」が紡がれます。全てのノードが全てのトランザクションを検証するからこそ、銀行や決済企業のような中央集権的な主体なしに、分散型組織として機能するわけです。逆に言うと全てのノードが互換性のある(≒統一された)ルールに従って、ゲームをプレイする必要があります。

ビットコインやEthereumに変更を加える(ブロックサイズを大きくしたり、コンセンサスアルゴリズムを変更したりする)場合には、ルールの変更が必要です。このルールの変更の仕方にはハードフォークとソフトフォークの二種類があるのでした。

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上の記事でも說明しているように、ハードフォークはルールの緩和で、それは旧来のルールの枠をはみ出る可能性があるものでした。ソフトフォークはルールの厳格化で、それは旧来のルールの枠内に必ず収まるものでした。旧来のルールを破る可能性のあるハードフォークは、常にチェーンの分裂を引き起こす可能性があるため、SegWitはハードフォークを避けて、ソフトフォークでの処理を行いました。

オンチェーンガバナンスについて

オンチェーンガバナンスはコインホルダーやマイナーの投票等によって決定された変更(コードのアップデートやパラメータの変更)が、そのブロックチェーンを構成するノードに自動的に採用される仕組みのことです。DfinityやTezosで採用されています。

Ethereumの場合、コードのアップデートはオフチェーンガバナンス(※後述)ですが、ブロックガスリミットはオンチェーンでパラメータの変更が行われます。Ethereumのブロックサイズであるブロックガスリミットはブロック採掘に成功したマイナーの投票によってブロック毎に上下します。

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ただし、コードのアップデートはマイナーやコインホルダーの投票によって自動的に行われるわけではなく、開発者やコミュニティの合意に基づいて、各ノード運営者が自発的にソフトウェアの更新を行います。このように、部分的にオンチェーンガバナンスが用いられるケースもあります。

オンチェーンガバナンスの場合、コードやパラメータの変更は自動的に採用される仕組みになっているので、一旦採用されてしまえばハードフォークが起こってネットワークが分裂したり(オンチェーンだからハードフォークが起きないわけではないのですが)、ノード運営者がわざわざソフトウェアをアップデートする必要はありません。

オンチェーンガバナンスの特徴をまとめると以下のようになります。

  • 変更はマイナーやコインホルダーの投票によって決定される
  • 変更反映は自動的に行われる仕組みになっている
  • ノード運営者は意思決定をする必要がない
  • 意思決定する必要がないのでアップデートの変更がデフォルトになる
  • そもそも投票が集まらない傾向にある(それは現実世界の政治においても、The DAO事件においても同様)
  • 弱小ホルダーには、わざわざ投票するインセンティブが小さいので、結果的に寡占になりやすい
  • 弱小ホルダーに人為的なインセンティブを与えることで投票をコントロールできるのでプロトコル外で金権政治が発生しやすい
  • ただし、金権政治が広まると買収する側で競争が起き、買収される側へのリワード共有率が100%に近くなってしまう
  • その後、政党政治のようにカルテルが発生し、リスク回避的なコインホルダーは既存の代表的なグループのみに投票を固定するようになる

Governance, Part 2: Plutocracy Is Still Bad

オフチェーンガバナンスについて

オフチェーンガバナンスの場合、チェーンを介した投票は行われません。最終的にはノード運営者の意志によってソフトウェアが更新される必要があります。ノード運営者の意思決定なしに変更は行われません。ビットコインやEthereum(ブロックガスリミット以外)で採用されているガバナンスモデルです。

  • アップデートにはノード運営者の意思決定が必要
  • 意思決定が必要なので現状維持がデフォルトになる
  • 全体の合意を得るのに時間がかかる
  • 合意が得られない場合、ネットワークが分裂することもある(やはりオンチェーンガバナンスだからネットワーク分裂の可能性を排除できるわけはありませんが)

所感

Twitterでも書いたのですが、個人的には、DPOSなりオンチェーンガバナンスなりで、意思決定を他人に委任する場合、そのチェーンは誰の意志を反映していることになるのかが気になるところです。

この話題は活性化エネルギーの話と似ているなと思うところがあります。確かに基底状態から遷移状態に励起するために必要なエネルギーはオンチェーンガバナンスの方が小さいのですが、「活性化障壁が高いからこそ、それをコミュニティのコンセンサスと見做すことができる」みたいなところもあるはずで、「触媒を使えば楽に反応できるよね」っていうほど単純な話ではないと思っています。

活性化エネルギー – Wikipedia

参考

  1. Against on-chain governance – Vlad Zamfir – Medium
  2. Notes on Blockchain Governance
  3. Governance, Part 2: Plutocracy Is Still Bad
  4. A beginner’s guide to Tezos – Linda Xie – Medium
  5. The DFINITY “Blockchain Nervous System” – DFINITY Blog – Medium