「CryptoKitties」は直訳すると「秘密の猫ちゃん」になりますが、CryptoKittiesのCryptoは「暗号」を意味します。「Cryptocurrency(暗号通貨)」の暗号と一緒ですね。CryptoKittiesは暗号学的にセキュアであるブロックチェーン技術を用いた「たまごっち」や「ポケモン」のようなゲームです。Ethereumはプロトコルレベルでは開発が進んでいるものの、まだまだ「Ethereum経済圏」と言われるようなものはできておらず、第一段階としてはブロックチェーンとの相性が良いゲームやギャンブルに期待している状況です。個人的にはGnosisのような予測市場プロジェクトの開発が進むと面白いと思っているのですが、予測市場トーナメントOlympiaの公開も予定より遅れており、開発チームはクリスマスまでの公開を目指しています。
CryptoKitties | Collect and breed digital cats!
さて、このCryptoKittiesですが、非常にシンプルな設計であり、かつ絵柄も決して可愛いとはいえないものの、一定の反響を呼び、現在Ethereum上のトランザクションの約15%をCryptoKitties関連のトランザクションが占めるまでになっています。
ETH Gas Station | Consumer oriented metrics for the Ethereum gas market
単独1位のEtherdeltaは分散型取引所の1つですね。
Ethereumのトランザクション数が大幅に増加していることが見て取れます。
Ethereum Transaction Growth Chart
CryptoKittiesの概要
冒頭でも說明した通りCryptoKittiesは「ブロックチェーン技術を応用した猫のゲーム」です。マーケットプレイスで猫を売り買いしたり、2匹の猫を用意して交配させ、新しい猫を誕生させたりすることが出来ます。Ethereumのパブリックブロックチェーンを用いることの最大のメリットは「全てのデータが公開されており不正がされにくい。ブロックチェーン上のデータは改竄されづらいので、猫の所有権を明確にすることができる」という点です。例えばインターネット上のコンテンツは簡単にコピーされてしまうため、自分のオリジナルコンテンツを別の場所で公開されることを防ぐ有効な手段はありません。一方でビットコインやEthereumのブロックチェーンでは、第三者に明確な形で所有権の移転を実行することができるため、ブロックチェーン上のデータ(BTCやETH、あるいはトークンなど)の所有権を、自身の秘密鍵を使って証明することが可能です。
デメリットは費用が高いことです。後述するようにCryptoKittiesは猫の値段も現在非常に高いのですが、それとは別にEthereumのネットワークを使用する際にはガス代を使用する必要があります。ブロックチェーンは、通常のデータベースとは異なり、トラストレスでパーミッションレスであることを最優先しているため、単純なデータの記録や所有権の移転でさえ、コストがかかってしまいます。
CryptoKittiesの世界を覗いてみよう
まずマーケットプレイスを覗いてみましょう。
最も安い猫でも900円くらいします。なぜブロックチェーン上の猫を900円も出して買わなければいけないのでしょうか?冷静に考えると非常に高いのですが、同時に可能性も感じますね。
「もしこれがポケモンのような絵柄だったら?」
「現代アートのデジタル版に応用され、現状コピペに対する手立てがない電子データの正統な所有権をクールな形で証明できたら?」
可能性を感じます。
似たようなプロジェクトとしては、ビットコインのブロックチェーンを利用するCounterparty上で発行されたトークンのコレクションと売買ができる「Book of Orbs」があります。Twitterでもよく見かけるRarepepeコレクションもBook of Orbsを通じて収集したりトレードしたりすることが可能です。
最高落札価格は1300万円
にわかには信じがたいのですが、以下のトランザクションをご覧下さい。
Ethereum Transaction 0x2b813bd6a0f46a687588a504cf5a190883b4e97c0e7eb87d3cc7e6414b9fa7c0
253ETHがCryptoKittiesのコントラクトアドレスに送られていることが分かります。1ETHは約52000円なので、1300万円以上が支払われたことになります。このように送金が実際になされたことが明確になるというのも、パブリックブロックチェーン上に作られたゲームの強みですね。データベース上のデータを動かすだけであれば、比較的簡単に不正ができてしまいます。
その猫はこちら。
CryptoKitties | Collect and breed digital cats!
…可愛いですね。既に子供も5匹いるようです。所有者は「ouou123」さんで、他にも様々なユニークな猫を収集しているようです。
その他の高額取引された猫のリストはこちらページ(非公式)をご覧下さい。
CryptoKittiesのビジネスモデル
CryptoKittiesはバンクーバーとサンフランシスコに拠点を置くIT企業「Axiom Zen」によって運営されています。営利企業なので、収益を得ることを目的にしています。
ではCryptoKittiesからどのようにして収益を得ているのでしょうか?
FAQには以下のように説明されています。
15分に一度誕生するGen 0 Cat(0世代猫)が購入されたとき、その代金が我々の収益になります。またマーケットプレイス上での各取引の3.75%を手数料として徴収しています。
我々はユーザーの利便性向上のためにマーケットプレイスを用意しましたが、マーケットプレイス外で取引をして頂くことも可能です。
「Gen 0」という表記故に、「ビットコインのジェネシスブロックのようなもので、世界に一匹しかいない猫だから高値で取引されているのだな」と勘違いしていたのですが、そうではないようです。15分に1回生成されます。
Gen 0 Catやマーケットプレイスの取引量の詳細を見つけることはできなかったのですが、タイムラインには「Over $5M USD in transactions processed so far」という表記があります。マーケットプレイス上で500万ドルの取引が行われたと仮定すれば、運営側の報酬は18万7500ドル(約2128万円)です。これに加えてGen 0 Catの販売価格が売上に加わります。
猫の数の上限は?
現時点で10万以上の猫が生まれており、今後も15分毎にGen 0 Catが生成され、さらに交配によって増えていきます。ただし猫を連続で交配させることはできず、交配後は各猫ごとにクールダウン期間が設けられています。
子供を生む度にクールダウン期間は増加していき、また世代を経る毎にもクールダウン期間は増加していく設計になっているようです。
Ethereumネットワークの試金石としても、ビジネスモデルとしても
CryptoKittiesは一見ふざけているように見えますが、Ethereumネットワークのストレステストとしても、企業や開発者によるビジネスモデルとしても興味深い事例ではないでしょうか。類似ゲームはこれから量産されていくと思いますが、何一つプロダクトがなく、まともな開発報告もしないICOプロジェクトとは一線を画するものなので、混同しないように注意が必要です。