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イスラーム金融においてICOは適法なのか? – イスラム開発銀行がICO実施企業と協定 –

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ロイター通信によるとサウジアラビアのジッダに本店を置くイスラム開発銀行がサウジアラビアの地元企業Ateonならびにベルギーに拠点を置くSettleMintとブロックチェーンに関する協力協定を結びました。協定の目的はイスラーム法適格(シャリーア適格)商品の開発ならびに、フィナンシャルインクルージョン(金融包摂)の促進のようです。

公式サイトによると、Ateonはイスラム開発銀行と同じくジッダに拠点を置くフィンテック企業でP2PペイメントやKYC、エスクローなどのサービスを提供しています。SettleMintはベルギーに拠点を置くブロックチェーン関連企業で、現在IoTデータを売買するためのマーケットプレイスを提供するプロジェクト「Databroker DAO」のICOを行っています。

イスラーム法に厳格な開発銀行とICO実施企業の協同?

イスラム開発銀行がブロックチェーンを利用してシャリーア適格の商品の開発を行うことに特に違和感はありませんでしたが、協定を結んだ企業がICOを行っている最中であることには若干驚きました。ご存知の通りイスラーム金融には「利子を取ってはならない」「不確実性のある商品を売買してはならない」「本源的価値のないものを商品にしてはならない」など厳格なルールがあります。

当然ですがイスラム開発銀行も無利子で営業を行っています。イスラム開発銀行はイスラム社会の経済発展を目的に運営されており、株主にはサウジアラビア、クウェート、エジプトなどが名を連ねています。この協定を結ぶにあたって、SettleMintへの調査が行われたと思いますが、その上で協定が結ばれているということは、ICOはイスラーム法適格であるという判断がなされたという認識で良いのでしょうか(そんなことはないと思いますが)。

「利子がないのにどうやって銀行は営業するんだ」という疑問を持った方も多いと思いますが、イスラーム金融には利子という概念を迂回して、利益を得る手法が多数開発されており、現代的な金融商品もイスラーム金融に取り込まれています。債権はスクーク、リースはイジャーラ、ベンチャーキャピタルのような出資はムダーラバなど、現代金融の世界にある商品の多くをイスラーム金融内でも見つけることが可能です。


Profit and loss sharing – Wikipedia

これらのような利子回避のスキームはイスラーム世界の中でも賛否両論で、「全ての利子に準ずるものを否定」「一部を否定」「明らかな違法性がなければ容認」など学派や地域によって大きく立場が異なるのですが、便利な金融商品が取り込まれてきたことは事実です。

ビットコインに関しても「本源的価値がない」「不確実性が大きすぎる」などの要素が懸念されいますが、ビットコインやその他暗号通貨の存在感が大きくなるに連れて、イスラーム法に抵触しないような形のスキームが開発されるでしょう。

今回の協定とICOは無関係だが…

まず今回の協定内容とSettleMintが実施しているICOには何の関係もありません。そしてブロックチェーン×シャリーア適格というコンセプトで商品の開発を目指すのは、イスラム社会の経済発展を目指すイスラム開発銀行としても理にかなっており、興味深いプロジェクトだと思います。

とはいえ協定企業がイスラーム法学界でも十分に議論されていないであろうICOを堂々と行っているのは、他人事ながら不安を感じさせます。今後、良い方向のニュースが発表されることに期待します。


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