『マスタリング・イーサリアム』の翻訳に参加しました。

プロジェクトの質・トークン価値・インセンティブ設計が別物である理由

トークンモデルについて考える

「2019年は淘汰の時代って言ってたけど結局上がるときは全部一緒に上がっていくじゃねーか」という声が聞こえてきます。

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トークン市場の時価総額はSoV性と幻想でできているのが現状なので、それは仕方ないことです。なので、短期的には暗号通貨市場全体のトレンド(≒BTCやETHのトレンド)を読んでいくことが大事なのは事実です。

本記事ではトークンについて語られるときに混同して語られることの多いプロジェクトの質、トークン価値、インセンティブ設計に注目してみたいと思います。

プロジェクトの質

プロジェクトとして有望であることと、そのプロジェクトのネイティブトークンに価値がある(あとで高い価格でつく)ことは別物です。

例えば0x ProtocolはKyberNetworkと並んで交換プロトコルとしての地位を築いています(CosmosやPolkadotの進展によっては地位を脅かされる可能性もありますが現時点では筆頭です)。最近ではStarkWareと組んでスケーラビリティに取り組んだり、Hummingbotに助成金を与えて流動性の増加に取り組んだりしています。

では「交換プロトコルのスタンダードだからZRXは買いなのか」というと、それは別の視点が必要になります。なぜなら

  • 0xを使って作成されたDEX上の出来高が小さい
  • ZRXはバーンされずに市場に流動していく仕組みになっているので価値の滞留が難しい(次のトークンモデルの変更で若干改善される予定)
  • CEXが強すぎる
  • ロングテール側のアセット交換にとっては便利だが額が小さい
  • ロングテールであってもアービトラージを可能にするために複数の市場があることが望ましい

等の理由によって、ZRX自体が大幅に値上がりするシナリオを描きづらいからです。

これらのことを考えると現在時価総額で44位につけているのはむしろ凄いことだと思います。恐らくトークンモデルの変更等の将来の期待を織り込んでZRXを保有している人たちがいるのでしょう。


トークン価値

トークン価値は単純に「そのトークンに価値が滞留しやすくなっているか」です。例えばバーン設計(秘密鍵保有者がいないアドレスにトークンを送金することで未来永劫使えなくする)のトークンは、トークンを燃やすことで擬似的配当モデルを実現しています(証券トークンとみなされる懸念があります)。

例えばMKRはDAI発行の手数料をMKRに変えて、そのMKRをバーンさせています。その手数料分のMKRはこの世から消えるわけですから、手数料分の価値はMKR内に閉じ込められたことになります。

トークンの周囲を漂う価値の粘度は高い順からバーン→ステイキング→手数料となります。

MakerDAOのプロジェクトとしての価値やCDP利用者のインセンティブ設計はともかく、MKRというMakerDAOのネイティブトークンの価値に注目すれば、DAIの発行量と手数料によってバーンされるMKRの量が決まるわけですから、この2つが高くなればMKRの理論価値も高くなることになります。

事実、MKRを永久債扱いして計算したMKRの時価総額は、DAIの手数料が19.5%に上昇しながらもDAIの発行量が高止まりしていた期間には、MKRはユーティリティトークンであるにも関わらずMKRの理論価値が時価総額を超えていた期間がありました。

前回の記事でも書いたように、大半のトークンはユーティリティトークンとしての価値向上を諦め、Capital AssetやSoVとしての性質を帯びさせようとしているわけですから、これは驚異的なことです。



インセンティブ設計

「MKRの価値が実利用によって正当化されてるならインセンティブ設計としても秀逸ということなのでは」という声もあると思いますが、MakerDAOのインセンティブ設計はMKRホルダーに有利なようになっており、リスクを追っているCDP保有者へのインセンティブが不十分なように見えます。

先程も言及した0x Protocolでは、インセンティブ設計を変更して、流動性共有とマーケットメイカーによるZRX保有を合理化しようとしています。

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0x Roadmap 2019 (part 3): Networked Liquidity & 0x Mesh

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0x Roadmap 2019 (part 4) — Proposal for Stake-based Liquidity Incentives

現時点ではZRXは0xを使って構築されたDEXでの手数料としてしか使われていませんが、マーケットメイカーに保有させる理由を与えることで、上述のステイキングによる価値の滞留と流動性提供の促進を実現しようとしています。

0xチームとしては0x上のDEXを利用するトレーダーにZRXを保有して欲しいわけですが、上の2つ目の画像にも示されている通り、トレードはするがZRXは持っていない(左端)とトレードはしないがZRXは持っている(右側)が多く、両方の性質を持っている人は少ない状況です。

インセンティブ設計を変更することで、トークンの分布を0xチームが考える理想的なものに近づけ、更にステイキングする合理性を持たせることでトークンの価値を向上させようとしているわけですね。

とはいえ、このトークンモデルはまだ採用されておらず、新モデル発表後にZRXは10%近く上昇しましたが、その後また下落しています。

結局どのように投資するのが良いか

CZ Binanceのツイートを常時監視し、言語解析してBNBをトレードする」

これですね。

砲手がマカフィーからCZに変わっただけで、マカフィー砲時代から大きく変わっていないので、このような手法も機能するわけです(非推奨)。

ただし、このような手法が通用する時代がいつまでも続くとは思えず、トークンモデルへの理解が投資リターンを明確に上昇させる時代が今年か来年に来るはずなので、その時のために準備しています。

何かあればTwitterまでお気軽に。


TokenLabでは本記事のようなトークンモデル分析、FacebookのLibraやBitfinexのLEO、インターオペラビリティ系プロジェクトのCosmosやPolkadot等のプロジェクトについての情報を共有しています。

上場企業の経営者や暗号通貨/ブロックチェーン領域の企業にも愛用いただいています。

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