時間が空いてしまいましたが、Maker DAOのWP読みを進めたいと思います。
前回の記事はこちら。
Target Rate Feedback Mechanism (TRFM)
TRFMは市場が不安定に陥った際に作動し、DAIの価格を安定化させる機能を果たします。以下で説明するように、価格の安定化は市場においてDAIのホールドや生成にインセンティブを与えることによって、Target Priceに近づけるというものです。
Target RateはTarget Priceに影響を与えます。上の図では、Target Rateが0%になっていますが、Target Rateが正であればTarget Priceが上昇し、負であれば下落します。DAIはStable coinと呼ばれることもありますが、このメカニズムの存在によって示されているように、DAIの価格は市場状況に応じて変化します。この価格変動を最低限に抑えようというのがDAIの目標です。
DAIが完全な固定ペッグを採用できないことはEtherを担保にし、USDとのペッグを目指している時点で明らかなことです。
TRFMは価格変動にネガティブフィードバックを与えることによって価格の安定化に寄与しようとします。
TRFMが発動した時点で、DAIの市場価格がTarget Priceを下回っていれば、Target Rateが上昇し、Target Priceがより高いレートに変更されます。
「Target Priceは既に市場価格を上回っているのに、何故Target Rateの上昇によって、Target Priceも上昇するのか?」
Target Priceの役割をもう一度確認します。
Target Priceは1DAI=1USDで設定されています。
- Target PriceはCDPのCollateral-to-Debt ratio(※後述)に用いられる
- Target PriceはGlobal Settlement(※後述)時にDAIホルダーが受け取る担保の価値を決定する際に用いられる
CDPはCollateralized Debt Positionのことで、スマートコントラクトを用いてDAIを発行する際にEtherを質に入れて、DAIを借り入れることができるのでした(※参考)。
【MakerDAOとStablecoin】Price Stability Mechanismsの仕組み – Individua1 | Ethereum経済圏研究
既定のTarget Priceが市場価格を上回っているにも関わらず、市場価格とTarget Priceが同値に収束しないのであれば、Target Priceを更に引き上げるということです。
Target Priceが引き上がればCDPを使ったDAI生成のコストが高くなり、Global Settlement時の交換レートも引き上げられるため、システムによって提案されるDAIの価格が高くなります。
Target Priceの引き上げによって、DAIをホールドするインセンティブが高まり(需要増)、且つCDPを用いたDAIの生成がより高価になります(供給減)。Target Priceと市場価格の関係が逆であれば、逆方向のインセンティブが働きます。
Sensitivity Parameter
上述のTarget Rateが変化するとき、その変化率を決定するのがSensitivity Parameterです。Sensitivity ParameterはTarget Priceと市場価格に乖離が発生している際に、MakerDAOのシステムがどの程度積極的に乖離を埋めようとするかを決定するパラメーターです。
Sensitivity ParameterはMKRホルダーの投票によって決定されます。ただし、Target PriceやTarget Rateの値自体は既に說明した通り市場力学によって決定されるので、この部分を混同しないようにご注意下さい。
次回はMKRホルダーが投票によってMakerDAOのマネジメントに参加できるシステム「Risk Management of The Maker Platform」について説明します。
The Dai Stablecoin System
Introducing the New Whitepaper for the Dai Stablecoin System