暗号通貨市場の時価総額が膨張を続け、現在40兆円を超える水準になっています。取引高を見てみると日本市場の盛り上がりは凄いですし、お隣韓国でも暗号通貨トレードが盛んに行われていることが分かります。
Twitterを眺めていても一年前とはもちろん半年前とすら全く景色が違います。特に直近三ヶ月に焦点を当ててみると以下の二種類の新規参入者が増えた印象があります。
- 投資未経験でITに特に詳しいわけではない一般層
- 既にFXや株の経験があり資金力も豊富なトレーダー
絶対数は少ないですが、プログラミングやアルゴリズムの知識を活かして自動売買を行うbotトレーダーの活躍も目立ちます。
ちなみに暗号通貨市場の膨張はビットコインの値上がりによって引き起こされていることは間違いないのですが、オルトコインの時価総額も同様に上昇しています。
では時価総額の増加分だけ法定通貨からの流入はあったのか?
上の図では暗号通貨市場全体の時価総額は11月13日には2000億ドルで11月27日には3000億ドルになっています。ではこの2週間の間に1000億ドルのお金が法定通貨から暗号通貨に流れたということでしょうか?
それはないでしょう。
企業の時価総額が発行済株式数×株価で計算されるのと同じように、ビットコインも「採掘済みのBTC」×「BTCの市場価格」で計算されます。現在のビットコイン発行数と市場価格を下に計算すると以下のようになります。
16,725,975 BTC × $15,310.90= $256,089,730,628
この式を全ての暗号通貨に当てはめ、それらを全て合計したものが暗号通貨市場の時価総額になります。つまり暗号通貨市場の時価総額は以下の3つによって決定されるということです。
- 各通貨の発行総数
- 各通貨の市場価格
- 通貨の総数
これらの3つが変動すれば暗号通貨の時価総額も一緒に変動するというわけです。
では暗号通貨市場の時価総額を上げるためにはどうすれば良いでしょうか?
上述の3つの変数を使って暗号通貨の時価総額を上げるための策を考えてみたいと思います。
(1) 各通貨の発行総数を増やす
多くの暗号通貨は一定間隔ごとに通貨が新しく発行される仕組みになっています。例えばビットコインの場合、約10分毎に12.5BTCが発行されます。Ethereumの場合、約12秒毎に3ETHが発行されます(厳密にはUncle Blockの採掘者にも報酬が支払われるので3ETHよりもやや多くなります)。
ビットコインを例にとって考えてみましょう。ビットコインの一日あたりの新規発行数は約1800BTCです。1BTCを12500ドルとして計算すると、一日あたり2250万ドル、約25億円になります。つまり価格が変動しなければ、新規発行分だけ時価総額は増えることになります。
もちろん新規発行されたら理論的には価値の希釈が発生するわけですが、例えばマイナーが採掘したBTCを市場で売りに出さなかったり、BTCホルダーが自身のBTCを高値でしか売り出さなかったりすると、BTCの価格は下がりません。
条件付きではありますが、法定通貨からの流入なしに暗号通貨の時価総額を上げることに成功しました。
(2) 各通貨の市場価格を上げる
極端な例を出すと、ビットコインホルダーが談合を行い「今日から50000ドル以下では売り注文を出さないようにしよう」という取り決めを行い、全員がそれに従ったとすると、現在価格12500ドルから50000ドルまでは真空地帯となり、ビットコイン価格は急上昇する可能性があります。
これはグレーゾーンのない白黒はっきりした純度100%の状態ですが、実際の相場でも各トレーダーは「この価格以上なら売る」「この価格以下なら買う」という(移ろいやすい)基準を持っており、その分布に従って、各価格帯における価格変動の摩擦力が決まるので、上の例も的外れではないでしょう。上の例では50000ドルまでの摩擦力がゼロだっただけです。
この例でも法定通貨からの流入なしに時価総額が上がりました。
(3) 通貨の総数を増やす
最近ホットなフォークコインや少し前に流行したICOがこれに当てはまります。
フォークコインの場合は、フォーク元のコインと同数のコインが既に発行された状態になるため、条件(1)を満たしたコインを誕生させることが可能です。またビットコインフォークの場合、市場において、どういうわけかある程度の価格で取引される傾向があるため、このフォークコインの時価総額分だけ暗号通貨全体の時価総額は上がります。
フォークコインの誕生によってフォーク元のコインの価値は下がらないのでしょうか。今のところ下がっていませんし、ビットコインのフォークコインはビットコインキャッシュ以外はビットコインとは異なるアルゴリズムを用いているためハッシュパワー資源の奪い合いにもなりません。またビットコインキャッシュのフォークの際にもBTCの価格は下落しませんでした。ただし、今後どうなるかは不明です。
またICOの場合は、発行済のコインをトークンセールによって配布するため、取引所に上場される際には既に一定数のコインが発行されている状態になります。故にある程度の市場価格があれば、それなりに大きな時価総額のコインとなって、暗号通貨全体の時価総額の引き上げに寄与するわけです。
含み益も時価総額も幻に過ぎない
特に流動性の低いコインを所有している方は痛感していると思いますが、市場価格で自分が保有する全てのコインを利確できることはまずありません。ビットコインであれば数億円くらいは簡単に捌けますが、低位銘柄の場合は、数億円どころか数百万円単位での売買が相場に大きな影響を与えてしまいます。故にBlockfolioで大きな含み益が示されていたとしても、その含み益を実現させることは非常に難しいのですよね。
今は日本人に大人気で取引高も大きくなったNEM/XEMですが、300Satoshi台で推移していた2016年初頭は数BTC分(当時の価格で25万前後です)のXEMの成り売りがあっただけで、市場価格が15%くらい下落してしまうような状況でした。
暗号通貨市場に法定通貨からの資金流入があるのは間違いないと思いますが、ある時点間の時価総額の差異が、そのまま資金流入の額に等しいわけではないことには注意が必要だと思っています。