今日はステーブルトークンであるHavvenについて考えてみたいと思います。MakerDAOシリーズのようにWPの全ページを細かく見ていくことはせずに、プロジェクトの概観とトークン設計の焦点を当てます。
Havvenは以前に紹介したMakerDAOの担保制とBasisの無担保制を組み合わせたようなモデルになっています。
ステーブルトークンの話をする時に一番気になるのは「価格下落時にシステムがどう動くか?」だと思いますが、これについてはいずれMakerDAO, Basis, Havven等でどのような方式になっているかをまとめて紹介する機会を設けるとして、今回はトークン設計とホルダーの期待値に注目します。
どうしても価格下落時の挙動を知りたい方はWPの15ページ目をご覧下さい。15ページ目だけでは意味不明な場合、8ページ目以降に担保率の説明がありますので、そちらも併せてご覧下さい。
Havvenの仕組みを概観する
Havvenの大まかな設計
Havvenのホワイトペーパーはこちら。
Havvenがどのように動くのかはこちらのページで説明されています。この記事では詳述しませんが、MakerDAO同様に担保資産の死蔵問題があります。もちろん担保するからこそ(その他の圧力なしに)純粋なシステムによって一定の安定性が達成されるのであって、死蔵という非効率性は、それを引き受ける主体がいるのであれば、価格の安定に寄与する側面もあります(だからこそそのトークンホルダーへの特別なインセンティブが必要になります)。
WPだと3ページ目にトークンの説明がありますので見てみましょう。
Nomin
これがHavvenシステムにおけるステーブルトークンとなります。1Nomin = 1USDになるように設計されます。
Havven
Havvenには二つの役割があります。一つは担保資産としての役割です。Nominを生成するときに担保として預けられます。
もう一つは配当を受け取る権利証明としての役割です。Nominを利用する(トランザクションを発生させる)時に徴収されるトランザクション手数料を受け取る権利がHavvenホルダーには与えられます。
WPでは例として手数料を0.2%に設定した場合のケースが紹介されているので、ここでもその数値を使います。
Havvenのトークン設計
ステーブルトークンであるNominはHavvenを担保にして生成されるため無担保ではありません。そしてHavvenの価値は、Nominのトランザクション手数料を受け取る権利に由来します。
投資家がHavvenトークンを購入するのは、Nominのトランザクション手数料を受け取る権利を得るためです。そして本記事では手数料は0.2%と想定します。
「トランザクション毎に手数料が徴収されるようなトークンを誰か使うんだ?」という疑問はあると思いますが、仮にNominトークンが完全無欠の価格安定性を実現するのであれば、手数料を払う人がいてもおかしくないでしょう。なので、それについてはここでは深掘りしません。
Havvenのトークンモデルを深掘りする
Havvenトークンの現在価値を算出する
既に説明した通り、Havvenトークンホルダーは手数料を収入として徴収することができるので、トランザクションが増えれば増えるほど、収入が増えることになります。
ということは、Havvenトークンが永久債のような働きをすると仮定すれば、Havvenの時価総額から、Havvenホルダーが想定しているNominのトランザクション総額を算出できることになります。
何故なら、永久債の現在価値はクーポンとディスカウントレートによって計算できるからです。ここでは永久債の現在価値はHavvenの時価総額、クーポンはNominのトランザクションから発生する手数料収入に相当します。もちろん「Havvenトークンを永久債とみなすのは不適切である」という意見がある場合、以下の式は成り立ちません。
Havvenの時価総額(7月15日): 17,714,145USD
Nominの手数料: 0.2%
Risk free rate: 2.83%
Nominのトランザクション総額: 不明なのでXとします
Havvenの現在価値(時価総額)= Nominのトランザクション総額 * 手数料率/ リスクフリーレート
数字を代入すると、
17,714,145 = X * 0.002 / 0.0283
X = 17,714,145 * 0.0283 / 0.002 = 250,655,151.75nUSD
つまりHavvenホルダーは「永久債としてのHavven」や「リスクフリーレートを米国債基準で考えること」という前提を共有しているのであれば、「Nominの年間トランザクション総額は250,655,151.75USD以上になる」ことを期待していることが分かります。
Nominの流通額から流通速度を計算する
ではNominの流通額と、それに伴って必要となる流通速度はどうでしょうか。
Nominの流通状況は以下から確認することができます。このようなことも簡単に確認できてしまうのがパブリックブロックチェーンの醍醐味ですよね。
Nomin USD (nUSD) Token Tracker
640,679nUSDであることが分かります。
期待されるトランザクション総額が250,655,151.75なので、
250,655,151.75 / 640,679 = 391.233600212
となり、流通している全てのNominが一日あたり約1.07回以上利用されることによって、期待されるトランザクション総額を満たすことができます。
Havvenの現在価値を正当化するためには流通速度の増加、手数料率の増加、リスクフリーレートの減少などの要素の変化が必要となります。
異論、お気付き等あればTwitterまでお願いします。