日本における語学学習というのは、文法→語彙→読解という流れで、リスニングやスピーキングはもちろん、ライティングさえもどこかに置き去りにされており、リーディング一辺倒です。ライティングはリーディングの量を確保できればある程度までは自然と伸びていきますが、リスニングやスピーキングは音に関する専門的な技能が必要なので、いくら文法を習得し、リーディングの能力を向上させたところで、大きな伸びは期待できません。特に現代の日本においてはインプット、アウトプット共に視覚情報=文字の比率が大きく、聴覚や発声の能力を伸ばす機会が限定されているので、何もせずに音に関する能力を発達させることは困難です。
大学の授業でさえ音声学の成果を利用した教授法を確立しているところは非常に少ないです。言語は音であり、コミュニケーションの手段ですが、その音について効率良く正確に学ぶには音声学を利用しない手はありません。とはいえ音声学を専門的に学ぶ必要はなく、音声学の成果を利用するだけで十分です。
「そもそも自然言語を学ぶことそのものが非効率だ。効率を追求するなら言語を学ばずに済ませることから考えるべき」という指摘はもっともなのですが、(英語以外の)言語を学ばずに済ませるためにも英語は必要です。また世界中の情報にアクセスするためにもリーディングのみならず、リスニングも鍛えておく必要があります。ちなみに私は「英語はできなければ損、その他の外国語はできれば得(ただし機会費用に応相談)」というスタンスです。
英語の語彙力増強に関しては以下の記事をご覧下さい。
音声学学習のコストパフォーマンスは最高
英語音声学の基本を身につけるために以下の書籍を使用します。
脱・日本語なまり―英語(+α)実践音声学 (大阪大学新世紀レクチャー)
大阪大学出版会
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著者は大阪大学の教授で印欧語の専門家です。その他の著作には、比較音声学や印欧祖語に関するもの、また音声学関連としては、ロシア語音声の手引きや竹林滋氏との共著で国際音声記号ガイドブックがあります。
この書籍の何が優れているかというと、予備知識無しで始められる上に、この本を一冊終えるころにはネイティブに許容される発音に加えて、英語音声学に関する多少の知識と専門用語が得られる点です。公式サイトに用意されている動画を参考にしながら、自身の口や喉、舌の動きを鏡で確認して、一つずつ英語の音を飲み込んでいくという形式で学習を進めていきます。日本人が苦手とする音や、アメリカ英語とイギリス英語の違いなどの説明を交えながら、日本人のなまりを矯正していくスタイルです。
畢竟、言語における音声というのは、口腔内で発生する物理現象に他ならないので、口腔断面図等を用いて、口腔内のどのような形がどのような音を発生させるかについての明確な説明が不可欠です。この辺りの説明がなければ、雰囲気で音声を学ぶしかありません。音声学というと非常にアカデミックな香りがして近づきがたいのですが、この本はその辺りが考慮されていて、予備知識なしでも通読できる構成になっているので問題ありません(そのような配慮故の著者の文体や時折交えられるダジャレなどは割りとキツイのですが…)。
また巻末には英語以外のメジャー言語の音声に関する概要が載っていて、日本語にない音に関して簡単な説明が加えられていて(1言語につき1ページか2ページだったと思います)、英語以外の学習をしている方にとっても参考になります。
正確な発音の習得は語学学習を加速させる
英語は発音と表記に大きな乖離がある言語ですが、それでも正確な発音を習得することによって、lとrの違いや、gやjとdgの違いに意識が向くようになり、語彙の習得に役に立ちます。また日本人にとって馴染みのない英語の音節を理解することにより、長い綴りも覚えやすくなります。
私は周囲にネイティブスピーカーや英語が堪能な人間がいない環境で育ったので、英語の音声に関する教育は大学に入るまで受けていません。そのような環境下で曲がりなりにも英語のネイティブスピーカーにも許容される発音を習得できたのは本書のおかげだと思います。また副効果として、英語以外の言語の発音も得意になりました。
本書一冊で英語の基本的な発音は習得できるので、まずはこの一冊をじっくり仕上げることをお勧めしますが、音レベルではなくアクセントやイントネーションも学びたいという方には以下の書籍があります。