この記事は主に、第二外国語を学び始める大学新入生に向けて書きますが、大学新入生以外でも英語以外の外国語を学ぶ予定のある方には一定の有用性があると思います。
「第二外国語習得に意欲のある学生」を対象にしているので、「単位され取れたらそれで良い」という、ある意味「健全な態度」をお持ちの方には有用ではありません。
また「既に研究分野が決まっていて、英語以外の外国語を学ぶ必要があることが決定している人」も対象にはしていません。
この記事で対象にしているのは「語学を学ぶのがそれなりに好きで、英語以外の言語もそれなりに真面目に勉強したいと思っている人」です。
※私自身の学生時代の学習方法の反省から、新しく大学生になる方々に、より有意義な学生生活を送って頂くことを目的に書いています。また本記事の内容は、全て私の個人的な意見であり、定量的な実験や学術論文に基づいているわけではありません。
危険物としての第二外国語
語学は色んな意味で危険です。無計画に第二外国語の習得を目指したが故に、他のより重要な分野の学習が疎かになったり、語学学習の過程で得られたプライドのせいで将来の選択肢が狭くなったり、大学では教えてくれない罠が結構ありますので、簡単に說明していきます。
どなたかが「英語はできなきゃ損、英語以外はできれば得」と的確に表現しています。英語以外の外国語ができれば得なのは事実なのですが、その得を得るためにどの程度のコストが必要で、どのようなリスクがあるのかも事前に確認しておきましょう。また、これは逆に言うと「英語以外はできなくても良い」ということでもあります。
第二外国語に注力するほどに英語力があるか?
語学で一番ヤバイのは中途半端に終わることです。特に中級の谷を超えるまでに語学学習を辞めてしまうと、語学学習から離れた途端に語学力が一気に衰えてきます。一方で、中級は丁度良い教材が少ないため、コンテンツドリブンで興味のある分野の本を読んだり、映像に触れたり、あるいは短期滞在するなどして中級の坂をどうにか登りきる必要があります。
ここでいう中級レベルとは「その言語が公用語として定められている地域で、その言語を使って現地の大学に正規入学できるレベル」です。日本の一般的な大学の第二外国語カリキュラムではまず到達不可能ですね。第二外国語のクラスが豊富にあって、週に4コマとか5コマ取れるような大学でも工夫が必要です。
更に、世は英語帝国主義時代なので、中途半端に英語と第二外国語が出来る人間よりも、第二外国語は一切できないけど中級レベル以上の英語力を持っている人間の方が一般的には有利な立場に置かれます。
100=中級レベルの語学力の場合、英語力60、ロシア語力40よりも、英語力100、その他の外国語0の人間の方が評価されることが多いでしょう。第二外国語で得をするためには、まず中級レベルの英語を確保して、英語力100、ロシア語力40にする必要があります。
第二外国語を中級レベルにするのは一定の時間がかかりますが、英語学習に使える時間を第二外国語に使ってしまうと、英語力が早々に頭打ちになる可能性もあります。若い学生が英語力向上の可能性を捨ててしまうのは、非常にもったいないです。
まずは英語を鍛えましょう。
特に大学生になると語彙を増やさない方が大多数なので、
若い内に語彙を今の3倍にしましょう。
現時点で「20時間くらい準備時間があればTOEICで900、TOEFLibtで80は取れそう」という人は今後も英語を学び続けることを前提に、第二外国語を計画的に勉強しても良いでしょう。
英語の能力が中途半端なのに、第二外国語に熱を入れ始めるのは非常に危険な兆候なので本当に注意して下さい。
プライドを持つほどの能力が本当にあるか?
語学はやればやるだけ伸びますので、素質に大きな開きが無いことの多い大学の教室では、投下時間に比例して語学力が決まります。故に単純に多く勉強した学生が「よく出来る学生」になれるわけですが、そのような狭い世界で築かれたプライドが、その後の人生の選択を狭めることはよくある話です。
「○○語ができるから○○語を使えるようなキャリアパスを考える」など愚の骨頂でありであり、順番が違います。これは英語も同様です。
また、語学力の優劣で学生としての優劣を測るのは止めましょう。語学力が重要なのは事実ですが、語学講義や学部などの狭い範囲でトップ付近にいることは、自分が優等生であることを意味しません。語学が多少できる程度で不要なプライドを持ってしまうと、卒業後の進路を考える際の障害になります。
目的ではなく手段として語学を使いましょう。
中途半端な語学力で自尊心を埋め合わせるのは止めましょう。
特に1, 2年生の頃は語学を集中的に学ぶチャンスがある大学も結構あると思います。語学の勉強は楽しいので、のめり込む方もいると思いますが、別分野の学習もしましょう。時には学部を超えて統計学や経済学など全く別の分野の授業を取って、別の形の知能や他分野の優等生に触れることを強く勧めます。
自己満足で終わってないか?
語学学習は自己満足で終わりがちです。独学でもある程度のところまではいける(そしてそこで頭打ちになって飽きる)ので、いけいけどんどんで様々な言語(多くの場合、既習言語と同系統の言語)に手を出し、マルチリンガルの全能感を味わえたりしますが、大体の場合、それは幻想です。下の動画と自身のレベルを比較してみて下さい。
発音の手法を理解して、文法書を終えて、演習本をやって、必要に応じて単語帳をやり終えれば、一定の能力がついたように感じるのは当たり前のことです。しかし独学であれ、週に数コマの授業であれ、何らかの歪みなり無意識的に避けている弱みなりがあるはずなので、それを修正することを怠らないようにしましょう。
外部の検定試験を受けよう
TOEICや○○語検定のような検定試験をバカにしている方は多いですよね。私もそうでした。ただ、モチベーションの維持、一定のレベルに達している人間が理解しておく全項目の確認、振り返ったときの虚無感の予防などの観点からいっても資格や認定を得られる外部試験は有用です。5千円程度の検定料が良い感じの強制力も与えてくれます。
「ある程度のレベルに達してから…」ではなく、三ヶ月以内に三級か準二級あたりの試験に申し込みましょう。
奨学金を取るときや留学するときなど、いざという時に役に立つ場合もありますよ。もちろん必要になってから取っても良いですし、その方が経済的には楽なのですが、そこまでの自律心のある方はごく少数です。意地を張るよりも外部の仕組みも使って、着実にレベルアップできる環境づくりをするほうが得策です。
今は熱意に燃えていて、外部からのエネルギー供給は必要ないかもしれませんが、短期的に速く走るのではなく、長く遠くまで走りたいなら外部のエネルギーも利用しましょう。
純粋に語学に興味がある人ほど検定などはバカバカしいと思うでしょうが、落ち込んだ時に心の支えになってくれることさえあるかもしれませんよ。何年間も沈むことなしに走り続けられる人なんていないのですから。
世界で活躍!なら自然言語よりプログラミング言語
ポジティブに世界で仕事をしたい、あるいはネガティブに日本から脱出したいと思い、その足がかりとして複数言語に手を出すのは悪手です。
まずは英語。そして世界(の労働市場)で通用するのは自然言語ではなくプログラミング言語です。プログラミングも参入障壁は低いので、日本語が活かせる領域でなければ激しい競争に晒されることもあるでしょうが、現時点で投資対象としてプログラミング言語が魅力的なのは変わりません。
言語は不得意だけど、コーディングが凄く出来るとか、エンジニアとしての能力が高いとか、そういう人のほうが世界で活躍してますね。ビジネスも同じで、他人から愛される性質やビジネスセンスの方が重要です。
理系学部の場合、自身の専攻に打ち込んだほうが世界で活躍できる可能性は高まるでしょう。文系の場合、自分が理想とする生き方を定義した上で、その生き方を可能にするスキルを身に着けましょう。
昨今の技術者不足のおかげで、エンジニアの場合は、ビザ取得時に優遇されることもあります。
リスクを取りたくなければ中国語(=普通語)を選ぼう
そもそも大学における第二外国語必修制度は、将来有望な学生にとっては害悪でしかないのですが、どうしても第二外国語を学ぶ必要がある場合の選択肢は中国語しかありません。
中国国内には様々な言語があり、もはや「中国語」と一括りはできないのですが(広東語、上海語、閩南語など)、ここでは標準語である普通語を指すこととします。
発音が難しく、且つ文法も日本語とは異なるのでオーラルコミュニケーション面では日本人が特別に有利というわけではありませんが、漢字に抵抗がないという最大の利点を活かせる日本人は中国語学習においてかなり有利な立場にあります。
政治経済面で中国の影響力が増し続けるのは確定していますし、何より日本は中国から近く、歴史的にも非常に密な関係を持ってきました。今後中国に出稼ぎに行ったり、研究者やエリートビジネスマンとして中国に滞在する日本人も増えるでしょう。仮にこちらから中国に出向かなくても来日する中国人や中国企業、日本に流入する中国文化(映画、書籍、サブカル、Webサービス)は増え続けます。
日本以外の諸外国でも同じことです。私はアメリカ、アフリカ、アラブ、ヨーロッパのいくつかの国に旅行したり、滞在したりしましたが、中国人は本当にどこにでもいます。彼らのネットワークの内部に入るのは難しくても、部外者として緩く付き合えるだけでも相当なメリットがありますよ。
また中国で出版される書籍は今のところ安いです。中国人によって書かれたもののみならず、学術書や教科書、辞書・辞典、あるいは外国書の中国語版なども日本語版に比べると安いです。今後、中国経済の拡大と所得の向上に伴って、書籍の価格がどのように推移していくかは不明ですが、中国語を通して中国の安い資源にアクセスする手段が急に使えなくなることはないでしょう。
例えばこの本、日本語版は約1800円、英語版が約650円で、中国語版が220円です。価格と価値の話をすれば、1800円でも買う価値はあると思いますが、価格は安いほうが良いですよね。
どうしても学ぶ必要があるなら迷わず中国語
悩む余地はないほどに中国語
学費の安さと英語との類似性に拠る学習コストの低さからドイツ語を推すことも一瞬だけ考えましたが、ドイツ経済が今後も堅調であり、且つEU圏外の学生にも授業料無料が適用され続けるかは不明なので止めました。フランス語も同様。その他の観点からみても、どう考えても中国語です。
教育機関、研究機関としての中国の大学の評価も上がってきています。
※参考
Top Computer Science in the World | US News Education
授業に出続けよう
語学は独学のほうが効率が良いと感じたりするんですが、これも幻想であることが多いです。瞬間風速的には確かに独学のほうが効率が良い場合もありますが、1セメスター単位で考えると授業に出たほうが良いです。
そもそも既習者にしか分からない落とし穴や書籍だけでは読み取れない情報が語学の場合は結構あるので、多少面倒でも授業に出続けて、暇な時は手元の辞書なりスマホなりで勝手に勉強しつつ、必要な情報だけ聞き出すやり方が効率的です。
特にラテン語やギリシャ語のような古典語は、教員が独特の雰囲気をまとっている場合も多く、講義の時間帯によっては眠くなったりするのですが、会話やリスニングのような演習がない分、現代語の講義よりもハイスピードで進むことが多いので、欠席は計画的に行いましょう。一回休むだけで一章分進んでて、ペースを乱されることもあります。
途中まで出席して、大学生特有の出来心で一回欠席して、それまではやる気があったのに、授業一回分を自力で埋め合わせる必要が出てきたせいでやる気を失い、結果的にその授業を放棄するのが一番もったいないし、よくあるパターンです。
勉強するなら授業に出席する
欠席する程度のモチベーションなら、そもそも勉強しないほうが良い
語学は時間喰いマシーンなので、時間管理とリターンに気を付けましょう。
第二外国語難易度
ちなみに日本語が母語で英語が既習である人にとっての第二外国語に学習難易度は
英語≒中国語<<<フランス語≦ドイツ語<<<<ロシア語<<<アラビア語
という感じでしょう。もちろん私の主観です。
イタリア語やスペイン語は学んだことがないので分かりませんが、発音や語形変化の観点から考えると英語とフランス語の間で、韓国語は英語と同じくらいでしょう。
インドネシア語やスワヒリ語は、語学そのものの難易度ではなく「教材が少ない」という意味の難易度が高いです。アラビア語は言語自体も難しいのに教材も少ないという二重苦を味わうことになります。
最後に
脅かすようなことばっかり書いた気がしますが、これは第二外国語学習が学生にとって非常にリスキーな代物であるにもかかわらず、それを認識している人が少なく、それについて警告したり共有したりする人がほぼいないからです。
また「卒業したら好きなことを好きなだけ勉強する時間なんてもう持てない。だから学生時代はリスクを承知の上で好きなことを勉強する」という方に対して私から言えることは何もありません。
私自身も語学学習が今でも好きですし、学びたい言語はたくさんあります。中国語をもっと勉強したいですし、トルコ語やヘブライ語も現地で学びたいとさえ思っています。
ただ、好奇心は自分の身が守られている安全圏にいるからこそ発揮できるものであって、好奇心が直接的に身を助けてくれるケースは少ないので、時限爆弾を適切に扱いつつ、時間と若いエネルギーを華麗に使うのが重要だと痛感しております。