『マスタリング・イーサリアム』の翻訳に参加しました。

【MakerDAOとStablecoin】担保資産とその精算時の仕組み

MakerDAOとStablecoin

PETH(Pooled Ether)の機能

Pooled Ether(PETH)はMakerにおいて担保資産として使われるEtherのことです。前回の記事でも書いた通り、現時点で担保資産として使えるのはEtherのみです。将来的には複数の資産が担保として使えるようになり、PETHは別のシステムに取って代わられるようです。

【MakerDAOとStablecoin】Collateralized Debt Position Smart Contractsの仕組み
本シリーズでは、MakerDAOのWhite Paper(PDF)を順に要約していきます。MakerDAOではEtherを担保にすることにより、DAIトークンを発行できます。DAIシステムでは1DAI=1USDのレートを可能な限り維持す...

Liquidationの流れ

ホワイトペーパーの5ページ目にはPETHの説明がありますが、情報量が少なく、いまいち要点が掴めません。MakerDAO公式Mediumの記事を参照します。

Introducing the New Whitepaper for the Dai Stablecoin System

Etherの価格が下落することにより、担保資産であるEtherの価値よりも、発行されたDAI(=未払い負債)の価値が大きくなってしまった場合、CDPはCDP作成者の意志とは無関係に清算されます。これは証拠金における強制ロスカットのようなものです。

CDPが清算されると、自身がPETHとして保有していたEtherをCDPから取り戻すことはできません。つまり自身が担保として使っていたEtherに対する権利が希釈化され、手元にはDAIが残ることになります。

上記のMediumの記事を読んでも、これだけでは理解できないのですが、恐らく以下のような仕組みになっているのだと思われます(数値は例)。

  • DAIは担保資産の2/3までしか発行できないようにレートが設定されている
  • 市場価格が1Ether=1000USDの場合、最大で666DAIまでしか発行できない
  • Ether価格の下落によってDAIの割合が2/3を上回った場合、CDPは清算される
  • 仮にDAIを最大限まで発行した場合、Ether価格が少しでも下落するとCDPは清算される
  • この例の場合、Ether価格が999USDになるとCDPが清算され、担保資産であるPETHは清算用のコントラクトによって自動的に売りに出される

ホワイトペーパー12ページ目に「Liquidity Providing Contract (Temporary mechanism for
Single-Collateral Dai)」の説明があります。

CDPが清算されると、CDPはMakerDAOのコントロール下に置かれます。清算後、CDP作成者が受け取るのは担保資産から借金(CDPによって発行されたDAI)、Stability Fee、Liquidation Penaltyを差し引いたものです。Liquidation Penaltyは、CDPを適切に管理させるための懲罰的措置であり、無謀なDAIの発行を抑える役割を果たします。現在Liquidation Penaltyは13%に設定されています。

取り上げられた担保資産であるPETHはLiquidity Providing Contractで売りに出され、Keeper(後述)によってDAIで購入されます。

CDP作成者はLiquidation Penaltyを支払う必要があるため、CDP清算後、CDP作成者の手元に残る資産とKeeperによって支払われたDAIの資産価値には差異が生じます。その余剰金はマーケットからPETHを購入し、そのPETHをBurnすることに使われます。PETHの流通量が減少することにより、PETHの対ETHの価値が上がる可能性があり、ホワイトペーパーでは、これをPETHホルダーのインセンティブとして挙げています。逆に、Ether価格が暴落し、PETHの清算ではCDPによって発行されたDAIをカバーできない場合、PETHが追加発行され、PETHホルダーは負の影響を受けると説明されています。

向こう見ずなCDP作成者による担保資産不足によって、大量のPETHが発行され、その結果、全てのPETHホルダーに影響があるとすれば、欠陥があるようにも思えます。ガバナンスを行うMKRホルダーが自身の過失によってMKRの価値が希釈されるのであれば合理性があるともいえますが、PETHホルダーには発行DAIのレート上限を決める権限がないので、仮に全てのPETHホルダーが一部の担保資産不足に陥ったCDPによって影響を受けるとすれば、”納得感”はありません。この部分は、自分の理解が間違っているかもしれないので、ホワイトペーパーと関連記事を読み通した後に訂正するかもしれません。その場合はTwitterでも報告します。

※KeeperはDAIやCDP, MKRのトレード、DAIの発行、CDPのクローズなどをする主体のことで、アービトラージを経済的インセンティブとして動くことが想定されています。ネットワークによって経済的インセンティブが与えられる主体の経済合理的な行動によって、DAIマーケットの合理性と価格の安定性が促進されることが狙いです。

名前こそ似ているものの、PETHとWETHは全く別物です。WETHはDEX等でEtherをERC-20トークンとして使うためのものです。上の説明の通り、ETH:PETHのレートは常に1:1というわけではありません。

DAIのダッシュボードを覗いてみましょう。

Dai | Dashboard

System Collateralization, Liquidity Penalty, Governance Fee等の数値を確認できます。

Debt CeilingやSpread (Bust/Boom)等の重要な項目は今後の記事で說明していく予定です。

誤りのご指摘等ありましたら、@indiv_0110までご一報頂けると嬉しいです。


https://makerdao.com/whitepaper/DaiDec17WP.pdf
Introducing the New Whitepaper for the Dai Stablecoin System