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【相場メモ】ビットコインキャッシュの20%近い高騰について

暗号通貨

ビットコインキャッシュの価格が前日比20%近い高騰を見せています。これは「ビットコインキャッシュがビットコインの本流として認められつつある」とか「11月に控えたSegwit2Xのハードフォークによるビットコインの分裂に対する警戒により、資金がビットコインビットコインに流れてきた」といった理由ではなく、「採掘難易度調整によってビットコインキャッシュのネットワークにトランザクションの詰まりが起こり、売るためのBCHを取引所に送金できないから」が主因だと思います。

以下では私の個人的な考察をご紹介します。

拡大する取引所間価格差

以下のチャートをご覧下さい。

Free Stock Charts, Stock Quotes and Trade Ideas — TradingView

上はZaifのBCH/JPYのチャート、下はKrakenのBCH/EURのチャートです。ほぼ同時刻のものです。価格に注目すれば、円建てBCHとユーロ建てBCHに大きな乖離があることをご覧いただけます。400ユーロは約53000円なので6000円の価格差が発生しており、10%以上の価格差が発生しています。

BTCでも取引所間に価格差が発生することはありますが、大体1%以下で安定しており、取引所間の価格差を利用して利益を出す裁定取引によって価格差は正常に是正されます。裁定取引は裁定取引Botでも手動でも行われます。裁定取引というと何となく「ノーリスクで利益を得ていてけしからん」という印象を受けるかもしれませんが、価格差の是正、流動性の提供という非常に重要な役割を果たしています。

しかしネットワークに遅延が発生し、トランザクションがまともに承認されない状況において裁定取引が有効に機能するのは手持ちの現物が尽きるまでです。BTCならともかくBCHという価格、ネットワークともに不安定で、裁定取引の媒体としてもあまり有用ではないものを多く所有していた人は少ないでしょう。さらに仮にBCHを所有していたとしても自身のウォレットではなく、BCHが高値で取引されている取引所で保管している必要があります。

ビットコインキャッシュの命綱でもあり枷でもあるEDA

ビットコインキャッシュにはEDA(Emergency Difficulty Adjustment)という機能が実装されています。EDAは簡単にいえば「採掘難易度とハッシュパワーに大きな乖離があるとき、その乖離を縮めるような調整が自動で行われる」というものです。採掘難易度調整の調整はビットコインにも実装されていますが、ビットコインキャッシュのEDAはよりラディカルな形で調整を発動します。

ビットコインキャッシュの採掘難易度調整機能は11月にハードフォークを伴って変更される計画があるようです。
It’s Happening: Bitcoin Cash Is Set to Hard Fork on November 13

以下のグラフをご覧下さい。

BitcoinCash Difficulty Chart and Difficulty History Chart – CoinWarz

ビットコインキャッシュの採掘難易度がドラスティックに変動している様を確認できると思います。特に昨日から今日にかけての採掘難易度調整が過去最大級のものであることが見て取れます。

つまりEDAによってビットコインキャッシュには以下のサイクルが起こるわけです。

  1. 採掘難易度がハッシュパワーに比べて大幅に高い
  2. EDAの発動により難易度が大幅に下落し、マイナーにとっての収益率がBTCを上回るほどに改善する
  3. BCHが短期間で大量に採掘される(その間、ビットコインのネットワークは詰まりがちになる)
  4. 採掘難易度がハッシュパワーに比べて低くなる
  5. EDAが発動し、採掘難易度が大幅に上昇し、マイナーにとっての収益率がBTCを下回るほどに悪化する
  6. マイナーがBCHをマイニングするのを止め、ビットコインキャッシュのネットワークが詰まる

今は5を経て6に、そして1に戻り、2を待っている段階です。ちなみに3の段階ではBCHが短期間で大量に採掘されるため、発行量の増加による価値の希釈とマイナーのマイニングコスト回収のためのBCH売却が発生し、価格の下落要因となるはずですが、10月23日の難易度下落調整では価格はあまり下がりませんでした。

続いて以下の表をご覧下さい。

Blockchair / Bitcoin Cash / Blocks

4時間半ぶりに採掘されたブロックに他のブロックとは比較にならないほど多くのトランザクションが格納されていることがご確認頂けると思います。

このような状況においては、いつ自分が送金したBCHが取引所に着金し、十分な数の承認を得られるのかが分からないので、たとえ取引所間に大きな価格差があったとしても、安い取引所で買って高い取引所で売ることは容易ではありません。それは宙に浮いたトランザクションの承認を待っている間に、自分のBCHよりも先に送金処理されたBCHが取引所に承認された時点で徐々に売られていくからです。

価格の偏移の背景を探ってみよう

暗号通貨を触っている人間は誰しも投資利益に興味があると思います。ビットコインの技術や思想に強い興味を持っている方々でさえ例外ではないでしょう。技術や思想、あるいは経済理論といった知的好奇心を刺激するものの絶妙な組み合わせが暗号通貨の面白さだと思いますが、お金が絡んでいなければここまで多くの優秀な人材を惹きつけることはできなかったと思います。

とはいえ価格の推移とそのコインやプロジェクトの正統性や将来性は区別して考えるべきだと思います。”べき”というのは社会的、あるいは倫理的な要請故ではなく、純粋に投資利益を求めて暗号通貨を保有している場合においても、この区別は投資で大損しないために重要だからです。

個人的にはビットコインキャッシュには強い関心を持っており、今回の値上がりでビットコインキャッシュの思想や技術、ビッグブロック派の研究動向にも関心が集まれば良いと思っています。

相場メモ通信のご紹介

暗号通貨相場における値動きの推移を記録したレファレンスはあまり見かけません。私も個人用にそのようなデータが欲しかったので探してみたのですが見つけられませんでした。Twitterのデータを分析すればある程度は値動きと出来事の相関を機械的に抽出できそうですが、自分にはそのような技術はないので、今後は気が向いた時にこちらで相場メモとして記録を残していくことにしました。